カーオーディオにあわせるとダイナミクスが減る

最近の自動車の室内は昔に比べ驚くほど静かになっていますが、カーオーディオで流す音楽などへの要求としては以前と変わらず「ダイナミクス(強弱)があまり変わらず一定の音圧が維持されるもの」であると思います。

昔の状況を説明しますと、うるさい自動車の室内雑音のマスキング効果を突き抜けて聴こえるようにするには一定以上の音圧で音楽が再生されねばならず、それは音楽の弱音部(弱奏部、ピアニッシモなどの部分)においても変わらないため、弱音部の音圧をある程度上げる必要があります。

ならボリュームを上げれば良いじゃないというのは浅慮でして、ダイナミクスを維持したまま弱音が聞こえるようにボリュームを上げると、今度は強奏部(フォルテッシモなどの部分)で音が大きすぎてびっくりしてボリュームを下げるハメになります。

よく NHK の FM 音楽放送でこれを経験します。車でドライブ中に NHK FM のクラシック音楽放送などを BGM に選びますと、ピアニッシモの部分で何も聴こえずボリューム上げたらフォルテッシモの部分で大きすぎてあわててボリュームを下げるなんてよく起こります。

これは NHK FM のダイナミクスの取り方が拙いというよりは、お家で腰をすえて聴く向けに調整されているからというところでしょう。

ではドライブの BGM 向きはどうあるべきか?というと、「常に聴こえる」というか「鳴っているか、いないかが判別可能な程度に常に聴こえる」ことが重要であるはずです。この点では民放の FM の方が向いている音作りをしているように思えます。

さて、同様なことでドライブの BGM 向きの CD とそうでない CD があるように思えます。このことが昨今の売れる CD 作りの音作りにも影響している気がするのです。

現在のオーディオ機器を使って音楽を聴くという状況で多そうな順に記すと

  1. 携帯音楽機器(含:携帯電話等)
  2. カーオーディオ
  3. 据付のオーディオ機器(但しラジカセ、ミニコンポ類でポンと置いたようなもの)
  4. 据付の本格的オーディオ機器(コンポ類でも設置を工夫してたりするなら、こちらかも)

1 に対し 4 なんて数%も無いんじゃないでしょうかね?当然 4 をやっている人の方が他のいずれより平均的には音楽源(CD やレコード、今ならネットのストリーム配信なども)購入にもお金をかけているとは思いますが、実質市場の舵を握っているのは 1 ~3 の層なのだと想像できます。

1 と 2 ではおそらく大きく有様が異なっていて、2 の人は 1 の人よりお金を機器などにもかけているじゃないかと推測します。

1 の人は、音楽自体も重要ではあっても、もう一つ重要な役目が音楽にはあって多くの場合で携帯音楽機器で再生する音楽で周囲の音をシャットアウトし、どこでもパーソナルスペースを幻出させるという重要な役目を担わせているのではないかと思えています。

この役目からも「常に聴こえる」ことは重要です。

1 でも 2 でも結果として「常に聴こえる」ことが重要なわけです。そして、その層の購買力が大きいため、供給側もそれに合わせた商品を揃えた方が売れるわけです。結果としてダイナミクスに乏しく、常にメーターが振り切れに近い音源が優れていて売れる商品ということになります。

ジャンルとしてはポップスやロック、ヒップホップや有利ですよね。しかし、極めて大きいダイナミクスがあるクラシック音楽でも弱音の音圧を機器を通して上げてしまった音源に作り変えてしまえば、「常に聴こえる」クラシック音楽の CD などが作れてしまう。

これは再生機器やご家庭での再生状況から昔からある程度やっていたことなんですが(LPレコードに長尺で入れるためにダイナミクスを削って、全体の音圧下げ、溝の幅を抑えて長時間録音可能にするなんてこともやっていたようですが、これは現代のものと結果が逆--今は爆音、昔は鈴虫のような小さい音)、今はかなりあからさまで必要最小限という範囲を超えていると思えることがあります。

同じ録音から起こしたはずの CD でも昔出た CD の方が音が良いとか言う人がおりますが、これなんかおそらく上のようなことが関係しているのではないかと思います。

実際、90年代半ばまでの CD の方が確かに音も良く、音楽も良く思えるものが多い気がします。

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