続々 MC カートリッジ専用管式フォノイコライザーアンプが現実的か確認するためデザインしてみた

今までのスーダラな話ではモノができそうにないので。(笑)

まあスーダラでもなんとか動いちゃうのが真空管回路の良いところではありますけど今回半導体回路との混合にもなりますし。

システムの概要

そもそもの出発が MC カートリッジの出力(オルトフォンなどの超低出力はさすがに考えていません)でステップアップトランスを使わずに真空管でライン出力まで増幅するEQアンプは作れないもんだろうか?という疑問でした。

問題はやはり

真空管の雑音

につきます。

どのくらい雑音が出るかはもちろん素子や動作条件で変わるわけですが、EF806S の TELEFUNKEN によるデータシートには

The equivalent noise voltage to generates at g1 ca.  2μV for range of frequencies 25 … 10,000 c /s at Ub = 250V, Ra = 100kΩ, measured with a peak voltmeter for noies and an earfilter to CCIF-Norm 1949.

などと書かれております。EF806S なんて言ったら今で言うウルトラローノイズな素子ですから、まあこれを最良値として考えて、これでダメならもうダメで良いのではないかと。

英語読めれば言うまでもないのですが、上は要約すればプレートと電源間に接続する抵抗が 100kΩで電源電圧が 250V のときに 25~10kHz の帯域で雑音信号がコントロールグリッドとプレート間で 2μV 出るよ~ということで良いはず。”measured with a peak…” 以降の記載は計測の仕方の話で、ここで重要っぽい話は CCIF-Norm 1949 すなわち今でいう ITU の聴覚モデルにしたがった(今と昔で使われている特性が若干異なってるはず)フィルターを通しているって話のところでしょう。大雑把に言えばこのフィルターを通したほうが素で計るより若干有利になるはずです。

とは言え最終的に耳で聴くのでまあ、 2μV 雑音が乗るのねーで良いのだと。そうしますと、電流としては概算 2μV/100kΩ=20pA でしょうか。

アンプのモデル

ブロック図では

MCPhonoEQBD

こんな感じですが

  • アンプ1は高増幅かつ低入力インピーダンス(100Ω)で低出力インピーダンス
  • アンプ2は全体の増幅率で足りない分を補い、かつ高入力インピーダンスで低出力インピーダンス

実際は、利得が余っているなら若干アンプ1でも帰還掛けて安定させた方が良いとは思います。

JEITA の規定で行けば MC カートリッジの最大出力は 2.8mVrms として、これをこれまた JEITA の規定で接続条件から 2Vrms 程度にすることを考えますと、振幅で 2/(2.8×10^-3)=5000/7≒714。実際にはこれに RIAA 特性にしたがった周波数振幅特性の考慮が必要ですが 1kHz で考える分にはこのままでも十分問題ない。およそ 57dB。

RIAAフィルタのブロックでは、利得はマイナスです。1kHz のところで概算 -20dB でしょうか。そうするとアンプ1とアンプ2で合計 57+20=77dB を稼がないといけません。概算7千倍強です。

アンプ1でできるだけ利得を稼ぐ方が雑音対策としては有利ですが、RIAA 特性も考慮して「出来る範囲」で高利得としないといけません。理想を言えば出来る範囲でアンプ1で上げて足りない分をアンプ2で上げる話になります。

ここまでのお話は、JEITA の規定に沿った議論ですので振幅は全部 rms (実効値)になってます。なのでピーク値で考えるともっと厳しい議論になる。まあ普通に倍くらい。最悪値を考えると3倍くらい余裕を見ておきたいところです。

すなわちアンプ1は 9mV くらいのレベルで信号が入ってきてもあまり歪まないようにしておきたい。しつこいけど 18mVp-p。

アンプ1の検討

初段五極管グリッド入力プレート出力に直結で出力段三極管カソードフォロアーといったところでしょうか。これは利得を稼ぎたいためと出力インピーダンスを下げたいための両方を満足する。初段の負荷抵抗で出力段がカソードフォロアーだとカソードフォロアー回路の入力インピーダンスの高さが活きます。もちろんカソードフォロアーなので出力インピーダンスは低くなる。

初段に 6267(EF806S の普通の管。EF86 とも。電気的には同等) を使った場合、次のようなものが考えられます(概念)。

6267AMP

V1 の 10kV と R1 の 15MΩが括弧付き概念と書いたのを如実に示してますが、V1+R1 の部分は実際にはもっと低い電圧(せいぜい高くても 90V くらい?)と定電流アクティブ負荷に置き換わるところです。定電流アクティブ負荷のインピーダンスが大体 15MΩくらいだと利得が美味しい感じになるということです。

そしてこの 15MΩ負荷に対し 20pA の雑音電流(上の方で計算した値ですが、厳密には動作条件が違うので使って良いか問題はありますが、ドンブリ勘定)が乗ると 15M×20p=300μV。0.35mVrms 入力に対する出力は概算  280mVrms で、コレに 300uV 程度が出力に乗ると考えると、まあ 300μVrms だとしてもおおよそ 1000 分の1。感覚的にはなんか問題なさそうではあります。

実際の雑音信号は周波数帯域に対して分布しているので、こんな雑な話じゃすまないですが、どうせ負荷が一番問題になるところだろうし、そいつの雑音も重積されるのでまだ厳密に考えるだけ無駄な気がしまして・・・

そうなるとこの 15MΩ の高インピーダンス負荷を実現するのが技術的課題ってことです。

この負荷が実現できれば、ここで大体 800 倍の利得(58dB)稼げるので、アンプ2では 20dB 稼げば余裕です。

気は心程度の安定のために 8dB 程度負帰還掛けてもアンプ2では 30dB もいらないわけでかなり楽になりますし、その場合でもアンプ1は 50dB なので 316 倍の利得になり、0.1mV 入力に対し 30mV 程度の出力ですから実装設計もまだ楽でしょう。

ちなみに負帰還をかけなかった場合では、入力が 9mV ピークと考えて出力は 7.2V。出力段のカソードフォロアは若干設計が面倒になるでしょうか。そのあたりも考慮して

6267NFB

こんな感じでしょうか。P-G 帰還がちょっと不安ですが。(笑)

これに 12AX7 のカソードフォロアーをくっつけて、今日はもう面倒なのでアンプ2は 12AX7 プレート出力の P-G 帰還で済ましますと

PEQ4

こんな感じでしょうか。20~20kHz で 9mV 入れても大丈夫だと思います。

残る問題

さて残るのはまさしくアンプ1の初段高インピーダンス負荷は実現できるのか?ですが、長くなったので次回に。

ちなみにいくつか案はありますが、どれが有望かあたりはついてません。負荷が盛大に雑音出しちゃダメですしね。

続く

カテゴリー: エンジニアリング, オーディオ, 趣味 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください