トランスミッションライン方式スピーカーについて その3

TLS方式スピーカーの主な要素技術は、以下の五つになります。

  1. 伝送路(伝声管、伝送線路、線路、伝導路…)
  2. 1/4 波長共鳴管(1/4 λ共鳴管と書かれることも)
  3. ユニット取り付け位置による背圧・振動制御(機械・電気特性の変化)
  4. 伝送路のインピーダンス変化による音響フィルター
  5. 吸音(ダンプ)による音響フィルター

今回は 2 の「1/4 波長共鳴管」について。

1/4 波長共鳴は、片端を閉じもう片方の端を開いた状態にした管の長さの4倍の波長の音で共振するという現象です。実際はこの4倍の波長の音の 2n+1 倍の周波数の音でも共振しますが、基音は管長の4倍の波長の音です。例えば、管が 25 cm の長さなら 25 cm × 4 =1 m の波長なので 343 Hz です。

物理的な原理は、ここではとりあえず棚上げにします。

ちなみに両端を閉じた場合、管長の2倍の波長の音を基音として共鳴現象が発生します。両端を開けても同様です。共鳴の仕方は違いますが、共鳴音はどちらも管長の2倍の波長の音です。50 cm の管だと 50 cm × 2 = 1 m の波長なので 343 Hz となり、1/4  波長共鳴管と同じ周波数で共鳴させるには、こちらの管ですと倍の長さが必要になります。

どの場合でも管内部では、共鳴音の周波数でいわゆる定在波が発生します。

既に前回書いたように、トランスミッションライン方式スピーカーの多くで、スピーカーユニットの背面から放射される音を有効利用しようということを行っているのですが、この有効利用するためのからくりにこの共鳴現象を利用しています。音響的な現象を利用して特定の周波数の音を増幅していると考えてください。

前回では伝声管とその特徴、それをどうスピーカーシステムに活かすかを見ました。そこでは仮定としてほとんど管長は十分長いとしていました。これは共鳴現象を無視した議論をしたかったためです。

今回は、この共鳴現象の話になりますから、管長はそれに従った長さで検討します。

今、片端が閉口端、反対端が開口端の管にスピーカーユニットを付けることを考えます。仮にスピーカーユニットを管の閉口端に付けるとすると、管長が 1 m であれば 1/4 波長共鳴現象の共鳴周波数は、音速を 343 m とすると「音速÷波長=周波数」ですから

343 ÷ ( 1 × 4 ) =  85.75 ・・・

となるので 87.75 Hz になります。この奇数倍周波数は、共鳴する周波数です。例えば、257.25 Hz とか 428.75 Hz は共鳴します。

実際は高ければ高いほど管長に対し波長が短くなるのでトランスミッションライン動作に近づきますが、同時に波長が管径にだんだん近くなるため、あまりに高い周波数になるとトランスミッションライン動作から外れてくることになります。これは前回検討したことです。

この管で明確にトランスミッションライン動作を始める周波数は、1 m を 1 波長とするあたりからでしょうから、凡そ 343 Hz ということになります。ようするにこれより上はトランスミッションライン動作に加えて共鳴現象が乗っかりますが、これより下は概ね共鳴動作が中心になります。

今、スピーカーユニットの周波数振幅特性は 100 Hz くらいが平坦に出る音の下限としますと、大概そこから下はダラダラと音が出なくなります。

こういう場合、100 Hz の半分の周波数、一オクターブ下の音 50 Hz では大抵 -20 dB くらいは落ちてます。凡そ十分の一の大きさの音になってしまっていると考えればよろしいでしょう。

これに対し、85 Hz くらいだと凡そ半分くらいに落ちたくらいと考えて良さそうです。理由は今は棚上げにしますが。

これで単純に考えれば 1/4 波長共鳴現象で振幅を増幅して倍の音圧にできれば、スピーカーシステムとしては 100 Hz が下限ではなく 85 Hz くらいを下限とすることができそうです。

これに対し、85.75 Hz  の 2 n + 1  倍の周波数の音、257.25 Hz(3倍)、428.75 Hz(5倍)…などなどは、大半ユニットから普通の効率で放射されてしまうため管の開口端からやかましく出てきそうです。また、他の高い周波数の音も開口端からトランスミッションライン動作で出てきてしまいそう。

これを上手いこと処理するのが前回大雑把に検討した話ですし、詳細はさらに先の話でやります。

ようするに 85 Hz あたりから 100 Hz に届かないあたりまでのみを開口端から出すことができるんだろうと考えてください。そしてそれをするのがトランスミッションライン方式スピーカーであるということです。

逆にこれができていれば、ちょうど共鳴動作する 85.75 Hz とその前後若干周波数は実用的に使えるレベルで開口端から出てくることが予想されますから、これともっと高い周波数のユニットからの直接音を合わせてスピーカーシステムの音とすれば下は 85.75 Hz あたりから出るようにできるわけです。

<つづく>

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