その1ではインテグレーテッドアンプの一部としてのプリアンプ部分の設計でしたが、今度は単体でのプリアンプの設計検討です。
要求仕様:
- 入力は4系統以上
- リモコン操作で以下を操作可能
- 電源(待機・ON)
- 音量
- 入力選択
- 入力に対し出力は正相(正相アンプ、非反転アンプ)
- 入力 200mV に対し出力 1V (5倍)
- CD からの入力で出力がクリップしない(入力 5V が通れば余裕でしょう)
- 次段のパワーアンプも自作品を推奨にするが、それ以外も利用可能とする(半導体アンプが来ることも考慮する)
- 筐体のサイズは幅 30cm くらいのもの(奥行き、高さは適当でOK)
- 本体には電源スイッチ以外の操作系は付けない(操作系付けても面倒だし、リモコンあれば問題ないし、むしろ邪魔だし)
- 指定部品は以下
- ボリュームはナショセミの電子ボリューム
- 電子ボリュームの制御とリモコン信号の処理、電源の制御はマイコン
- オーディオ信号の増幅素子はサブミニチュア真空管 5744WB
- 電源は、余っている真空管用のプリアンプ電源トランス(ノグチ製)
といったところでしょうか。
入力の切り替えは、マイコン制御のリレーでいきます。ボリュームがナショセミなのは、例によって手元にあるから。マイコンは Freescale の 8bit マイコンになりそうな予感。
その1 のアンプとの増幅回路部分での要求事項で大きく違うのは、次段のパワーアンプとの接続が直近とは想定できないところと、3 の正相アンプである点でしょうか。
パワーアンプとの接続が直近とはいえないことから、出力インピーダンスは低いことが求められます。真空管アンプであれば、最終段はカソードフォロアにすることが多いでしょう。もしくはμフォロアか。
このことと正相アンプであることを考えると、構成としてすぐ思いつくのは以下
- 二段プレート出力増幅回路+カソードフォロア
- 一段プレート出力増幅回路+μフォロア
- 一段差動増幅回路(正相側プレート出力)+カソードフォロア
こんなところでしょうか。
1 は常識的で普通にありますね。マッキンとかマランツのもフラットアンプ部分はこの構成です。マッキンやマランツの場合は、トーンコントローラーや各種機能を絡めて入れてますけれど。
この場合、各種機能によりアッテネートされる(もしくは機能実現に NFB を利用する)ことにより増幅率が下がりますが、今回の場合、トーンコントローラーなどは考えておらず、たんなるフラットアンプですから、二段プレート出力を考えるとそのままではかなり過剰な増幅率になってしまいます。となると増幅率の安定も考慮して、どこかに NFB を掛けて狙った増幅率にする必要があります。
増幅率に関する扱いにおいては、全般同じです。なにせ増幅素子の 5744 が増幅率 70 ありますから、「その1」でも検討したように、たとえ一段増幅回路であっても NFB を掛けないと妥当なコストや工数で狙った増幅率にはならない。
となると、どこにどれだけ NFB を掛けるかという検討になりますが、単純にカタログスペック的に有利にしたいなら最終出力から初段に戻すオーバーオールの NFB にするのが有利かとも思えます。しかし、カソードフォロアも増幅回路と考えてみると、三段ぶち抜きで NFB を安定して掛けるのはできなくは無いけれど面倒。次段のパワーアンプとの接続状況なども考慮すると、あらゆる状況で問題なく安定を実現する(出来ると言える設計をひねり出す)のは結構面倒です。
ことにカソードフォロアなんて単体でも下手な実装をすれば発信することも無くはないような代物が最終段で、その先にどういう特性がくるか想定困難となると NFB ループにカソードフォロア段は入れたくなくなります。さらに 5744 が結構高い周波数帯まで利用できる球なので下手を打てません。
ようはオーバーオールに NFB を掛けるなら、この場合は危ない橋を渡らずに、NFB はカソードフォロアの前で掛けておけということです。もしくはオーバーオールに掛けるのをやめるか。
1 でしたら初段と二段目、それぞれで P-G 帰還を掛けるか、それぞれ自己バイアスと想定した上で二段目プレートから初段のカソード抵抗に帰還を掛けるか、その両方を組み合わせるかでしょうか。
しかし、正直言えば、1 も 2 も過剰に増幅率が高いのを無理に下げる感じで、素の高い増幅率のおかげで入力でクリップしやすくなりがちです。上の案の二番目、二段目プレートから初段カソードへの帰還だけで 5V 入力に対しクリップしないようにするのは困難ですから、三番目の案が妥当に思えます。正直 1, 2 でいくと NFB まわりが複雑であまり好ましくは思えない。
ぶっちゃけ、そういう観点から言えば 3 の差動増幅回路が一番簡単でしょうか。差動増幅回路ですから、個々の素子の増幅率の半分の増幅率になりますから、正相アンプでも過剰な増幅率は減ります。
もっとも電源のことを考えると、必ずしも差動臓腑回路の方が簡単になるとも限りません。
初段に作動増幅回路を持ってくるなら、そして定電流回路を定電流ダイオードでまかなうならカソード電位から -6V ほどは下に引っ張らないといけないので、グリッドを GND 電位とすると定電流ダイオードは -5V より低い電位にできないといけない。
幸いというかなんというか、手元の電源トランスは真空管ヒーター A 電源用に 6.3V が2系統出ていて片方が 2A なので、これを A 電源用にすれば、もう片方の 0.8A 端子はこの初段のマイナス電源に使える。まあどうせ A 電源は直流にしようと思っていたので、共用してしまってもかまわないんですけど。
比較すると、1, 2 の案だと一段最大 70 の増幅率が二段になるので 70 × 70 = 4900 倍を 5 倍の増幅率まで NFB で落とさないといけませんが、3 の案だと 70 の増幅率の半分 35 倍を 5 倍まで落とすので 1/7 にするだけですみます。CD 出力の最大値でクリップしないようにしつつということを考慮すると、簡単なのはどうみても後者の 3 の案です。3 だと電源のレギュレーションにもあまり気を使わなくてすみますし、途中のカップリングコンデンサも一個減らせられます。
実際に 3 の概要設計をすると以下:
※ 間違えて妙な(リーク・ムラードPP増幅回路の位相反転段みたいな)回路になってました。修正
1 の場合は以下:
※ こちらもゴミが残っていたの修正がてら帰還量も再修正。
もうなんか 1 はいかにも作るのが面倒くさそう。(笑)
3 の R1, R2 の抵抗値や定電流値は試作検討の対象でしょう。電気的にはこれでOKのはず。紙上の計算ではですがね。
あとは 3 の 1, 2 より少ない NFB 量で歪み率や帯域幅 (1 は 1MHz でもゲインがあるので逆に心配ですが) などに満足いく結果が得られるかというところが気になりますが、おそらく計測しても誤差のうちみたいなところにしかいかないような・・・となると、聴いて決めるしかないのですが、両方試作するなんてまさしく面倒。
ということでエイヤッと 3 に決めてしまいました。