両親の隠居所で使うインテグレーテッドアンプのための、プリアンプ部分を設計中。久しぶりのアナログ回路です。
最終的なインテグレーテッドアンプのプリアンプ部分の要求仕様としては、以下を考えました:
- 入力 200mV に対し、出力 1V (5倍)
- CD のピーク出力でクリップしない (5V 入力が通れば問題ないでしょう)
- パワーアンプ部の入力インピーダンスは 50kΩ (くらいかなぁ)
- 入力レベルの調節は、以前購入してほかしてあったナショセミの電子ボリューム使用
- 電子ボリューム制御は、これまたほかしてあるマイコンから適当に選んで使用 (何を使うかは別途)
- 増幅素子は安く購入した 5744WB サブミニチュア真空管がいっぱいあるので、これを使用
こんなところでしょうか。4~6は要求仕様なのか?とも思えますが、まあ「~を使用してくれたまへ」も要求ではあるわけで。
エンジニアリング領域の事項の決定は、エンジニアに裁量を与えてクライアントは金(予算)で方向性を絞る方が本来だとは思いますが、「倉庫にこの部品が大量にあってねぇ・・・」とかそういう事情もあったりするわけで、最初の要求から「○×を使え」って事項が入っていることはありうる話しです。○×を使うと製品の必要な機能や性能、品質がかけられるコストで実現できないとなるなら別ですが、そうでないなら○×を使っても問題ないでしょうし。
で、6 の事項ですが、1 などを考慮すると真空管なら 12AX7 や 12AU7、6DJ8 などを利用する手もあります。12AX7 なら現行の Sovtek の 12AX7LPS が余っているし、6DJ8 ならやっぱり安売りしていて何本か購入した PhilipsECG の 6722 が余っているので、これでも良いのですが、5744WB はもっといっぱい余っている。;-)
自分の使用実績を考えると 12AX7 が妥当ではありますが、ここは 5744WB にします。
検討事項として、正相(非反転)アンプとするか逆相(反転)アンプとするかというのがあるのですが、最終的なインテグレーテッドアンプとして正相であることにはこだわっても、途中はどうでも良いって考えますと、プリアンプを逆相にするならパワーアンプも逆相にすれば、逆相→逆相=正相だし、プリもパワーも正相ならもちろん正相なので、これは制約にはならない。
で、逆相にすると問題があるか?となりますが、スピーカー接続をひっくり返せばさほど問題ないか?と考えるとパワーアンプ的には問題はなさそう(コストかからないで対応可能)で、プリアンプ的には段数を一段減らせる(真空管はプレート出力で普通に使えば反転(逆相)アンプなので、正相にするには最低二段必要なる)ので、むしろコストが減ってありがたいかも。
プリアンプとパワーアンプを別に使用できるようにとすると、逆相だと困り(まあ音響的に逆相で問題が起こるのか?というのはあるのですが)ますから、その場合だけ正相が有利って感じでしょうか。
今回は、それぞれを別に使う予定は無く、同一筐体に入れて、プリ出力とかパワー入力とか別に出すつもりも無いです。ですので、KISS (Keep It Simple, Stupid!)の法則に従い逆相でいきます。
※ ちなみに KISS の法則ですが、技術屋がよく使いますが、もとは軍事畑の言葉ですから最後の ‘S’ は ‘Stupid” (まぬけ野郎とかとんま野郎とかそんな感じ)で原典に正しく(?)、スマートにした例えば、
“Keep It Short and Simple”
なんてのは、取り繕った気持ち悪さを個人的には感じます。
さて、1 の要求事項を考えると 5744WB の増幅率は 70 なので高すぎます。となるとアッテネーターで信号レベルを落とすか、NFB でアンプの増幅率を落とすかとなりますが、それぞれの利点はアッテネーター落とし(無帰還)は、
- 動作上は安定
- 理屈が単純
NFB だと
- 増幅率は真空管の個体差や経年変化に対し安定的(限度はもちろんある)
- 低歪みにできる
- 広帯域にできる
- 出力インピーダンスを下げることができる
となります。欠点はそれぞれ、アッテネーターだと
- 歪み的には不利
- 入力側にアッテネーターを入れると出力の雑音が増えざる得ない
- 出力側にアッテネーターを入れるとアッテネーター出力を受ける次段(パワーアンプ)の入力インピーダンスは固定になる
- 出力側にアッテネーターを入れると入力によりクリップしやすい
NFB ですと
- 設計が面倒
- あらゆる状況で安定した動作になるように設計するのが難しい
- 回路中のハイインピーダンス部分の実装がヘボいとひどい目にあう
となります。
今回のケースですと、それぞれの欠点が露呈しないところもあります。例えば、アッテネーターでレベルを絞る場合のパワーアンプの入力インピーダンスは、そもそもパワーアンプと同一に設計するので固定されても全然問題にはなりませんし、NFB の場合でも設計の難しさは間にいろいろ入っていわゆるポール(極)がぶちまけられるような状況に対して厄介になるのであって、今回の一段アンプで見ればポールはわずかしかないので何も考えずに設計してもほとんど安定性に問題は生じないでしょう。
比較衡量しますと NFB ですかな。実際無帰還でばらつきを抑えるのは、いろいろ面倒です。それに自己バイアス回路を使うなら、そもそもこれも NFB ですしね。
で、一段増幅回路に NFB をかけるとなると、P-G 帰還になります。プレートからグリッドへ戻す。
残る検討事項は、カソードと GND の間にコンデンサを入れるか否かってところですが、一般的にここに入れる理由としては、
- 出力インピーダンスを下げる
- 交流的にカソードを直接的に接地させることで自己バイアスのカソード抵抗による帰還を交流的には無いことにして増幅率を稼ぐ
ということになりますが、今回は増幅率がそもそも余っているので二番目の必要性は無いことになりますし、出力インピーダンスに関しても次段のパワーアンプ回路と直近だし、むちゃくちゃ高インピーダンスというわけでもないので、あまり気にする要素ではありません。
ということで、あとはよく言われる「カソードコンデンサの色づけ」とやらがあるので(というか部品点数減るし、作るの簡単になるし、安くなるし、自分の趣味としてカソードコンデンサは嫌いだし)、無くても大してこまらないならいらないという方向で。;-)
そんなこんなで 5744WB のデータシートを参照して適当に描いたのが次の回路です。
プレートの R2 が 51kΩなのか?は、データシートにもアプリケーション例が無いから分かりませんが、まあ 12AX7 の高信頼管とよく勘違いされる μ = 70 の 5751 とかでも(12AX7でも)これで問題なく動くし。電源電圧は、手持ちの電源トランスから大雑把に。
C4 が 1μF なのは、20Hz あたりの群遅延を考慮した結果です。一般的な値で行けば、0.47μF でも十分でしょう。C1 が 1μF なのもの同じような理由です。手元に松下製のフィルムコンデンサがあるので、気にせずこの一般より大きい値にしてます。
群遅延がどのくらい他の帯域と違っていても違和感がない(違いが分からない)かという点について、アメリカの学会だかに発表があった内容のうろおぼえで言うと、まあ総じて数ミリ秒以内なら問題無しということだったような。一番厳しいところで 1msec くらいだったような記憶があるので、まあ、低域はもっとぬるいだろうし、20Hz なんて私は聴こえないのでどうでもよろしいのですが、気分で。(笑)
※ 実際のところは、C4 が 0.47μF でも 20Hz での群遅延は 2msec 未満になるので、おそらく全然問題なしです。でも上に書いたように、部品が余っているのでここは張り込んでみました。
まあ、あとは実際に試作してみてからですかね。電気的特性としては、おそらくほとんど問題ないだろうから、あとは官能試験的な視点でどこら辺をいじるかってところでエンジニアリングプロセスを回すことになるのでしょうか。品質工学の出番かな・・・
あ、ちなみに 5744WB が 5751 似だからといってグリッド抵抗に 1MΩ とか使ってしまうと、5744WB のデータシートによれば DES. MAX. で 1.2MΩ なので余裕が・・・ちなみに 12AX7 (厳密には ECC83)のグリッド抵抗の DES. MAX. は自己バイアスで 2MΩなので、よくある 1MΩで全然問題ないです。